日本動脈硬化学会理事長
吉田 雅幸
心筋梗塞や脳卒中は、今もなお多くの方の命と生活を奪い続けています。その根幹にある動脈硬化を科学の力で解明し、予防・治療につなげることが、私たち日本動脈硬化学会の使命です。このたび、島野 仁前理事長(筑波大学教授)の後を継ぎ、理事長を拝命いたしました東京科学大学の吉田雅幸です。長い歴史と伝統を有する本学会の運営を担うにあたり、その責任の重さに身の引き締まる思いであります。
動脈硬化は、血管・代謝・免疫・加齢が複雑に絡み合う全身性の病態です。これまでのLDLコレステロール低下を中心とした治療戦略は大きな成果を挙げてきましたが、依然として残存するリスクの存在は、動脈硬化の本質がより多因子的であることを示しています。リポプロテイン(a)、TGリッチリポ蛋白、慢性炎症、代謝異常との相互作用を含めた統合的理解が、今後の研究と診療において重要となっています。こうした知見の深化は、目の前の患者さんへのより精緻なリスク評価と介入につながるものです。
ゲノム医療の進展も、動脈硬化診療のあり方を大きく変えつつあります。家族性高コレステロール血症などの遺伝性疾患への対応に加え、ポリジェニックリスクスコアやリポプロテイン(a)の遺伝的特性を活用することで、個々の患者さんの生涯リスクをより正確に捉えることが可能になってきました。治療は「集団への一律の介入」から「個人のリスクに基づく医療」へと移行しており、一人ひとりに寄り添うケアの実現が近づいています。
診断・治療の領域でも変革が加速しています。画像診断の進歩とAIの活用によりリスク評価の精度が高まり、新規脂質低下療法や核酸医薬の登場によって、より早期からの持続的な介入が現実のものとなりつつあります。これらの革新を、臨床の現場で実践していくためには、医師と医療スタッフが連携し、それぞれの専門性を最大限に発揮することが不可欠です。
本学会は、医師のみならず、看護師・薬剤師・栄養士・臨床検査技師など、動脈硬化性疾患に関わるすべての医療職が学び・議論し・実践に活かせる場であることを大切にしています。専門領域を越えた多職種の連携こそが、患者さんへの最善のケアを支えると考えているからです。動脈硬化の予防と治療に関心をお持ちのすべての医療者の皆様に、ぜひ本学会にご参加いただければ幸いです。
基礎から臨床、そして社会へとつながる知の循環を推進し、健康長寿社会の実現に貢献してまいります。会員の皆様とともに、学術の深化と臨床への還元を両立させながら、本学会のさらなる発展に全力で尽力する所存です。動脈硬化のない社会を目指して、ともに歩んでまいりましょう。
令和8年4月
一般社団法人日本動脈硬化学会
理事長 吉田 雅幸